ごま油の話(第4話)

ごま油の話(第4話)

 

 

三日で逃げ出した仕事

 

さて、前回の続きです。
島村楽器主催のバンドコンテスト、HOTLINE2003。
2330バンドの頂点を決める、
全国ファイナルで、僕たちは準グランプリに輝きました。

 

音楽関係のお仕事について、
いろいろ良さそうなお話がなかったわけではなかったのですが、
僕は不思議とそれを仕事にしたいとは思わなかったんですよね。

お仕事的にレストランで演奏したり、カフェで演奏したり、
そんなことはちょくちょくしていたんですけどね。
少しだけギャラをもらったり、まかないが食べられたり。

でも、がっつりプロとしてやりたいとは思えなかったし、
自信もなかったですね。
僕は自分の我流ギターの弱点をたくさん知っていました。

我流でずっとやってきちゃったから、
人に合わせられないんです。
人の指示通り弾くこともできない。
そういうのもあって、プロになりたいと思えなかったんですよね。

その頃仕事は何をしていたのかというと、
相変わらず月給12万円で父親のコーヒー屋さんを手伝ってました。
ライブハウスでも働いてました。

しばらくするとそのライブハウスは閉店することになったので、
僕もバイトを辞めました。

父親の知り合いがバーをオープンすることになったので、
そこでバーテンを始めました。
お酒は好きだったんです。

でも、そこでも我流バーテンだったので、
もっとちゃんと学んだら、もっとかっこよくなれるかなー、
くらいの軽い感じで、もっとちゃんとしたオーセンティックバーに、
「雇ってください」って頭を下げて、
下っ端として使ってもらえることになりました。

僕用のジャケットも作ってくれて、
きっとマスター的にはちょっと期待してくれていたんだと思います。
だけど、

実際働いてみたら、
結構きつい仕事で、
今でも本当に申し訳なく思っているのですが、
その仕事は三日で逃げ出しました。

とにかくまともに働くってことから、
なんとなくずっと逃げていました。

でも、
お金だけは、ずーーーーっとほしいなーって思ってました。
お金がほしい、お金がほしいって思ってました。

 

 

卵6個50円、パン3斤無料

 

そんなしょうもないことを繰り返していた21歳〜22歳の頃。

音楽活動も一旦休止し。
とりあえずもっとお金がもらえる仕事をしようと決心し、
また新聞の求人チラシを眺める僕。

僕は求人チラシを眺める時に特徴がありました。
まず、
「学歴不問」って書いてあるかどうか。

それから、
「肉体的にきつくなさそうかどうか」

そして、
「休みがあるかどうか」

 

そう。
僕はめっちゃ甘いやつだったのです(笑)

 

でも、そんな甘い僕の目に、甘い求人が飛び込んできました。

「健康食品の営業販売」
「学歴不問」
「土日祝日休み」
「基本給23万+歩合」

え?歩合なのに基本給そんなにもらえるの??
しかも学歴不問?
前にやってたような内装業みたいな肉体労働でもなさそう。

早速応募し、面接を受け、サクッと採用していただきました。
今思えば、よっぽどのことがない限り採用していたようです。

 

当時で社員1300人くらいだったと思います。
まあまあ大きな会社ですね。

その会社の初めての出勤日。
僕は驚きました。

コンビニの空き店舗のようなお店の前に、
おじいちゃんおばあちゃんが列をなしているのです。

「な、なんだこりゃ」
正直ちょっと引きました。

なんか、すごいところに就職しちゃったのかも。
一体何をするんだろう。
これから何をさせられるんだろう。

でも、
とにかくお金を稼がなきゃ。

そんなふうに思っていました。

 

そんな僕の最初の仕事は、
その並んでいるおじいちゃんおばあちゃんに、
6個入りの卵のパックを1パック50円で売ること。

卵1パックが50円だと!!!!!

一体、なんてすごい会社なんだ!
単純な僕はそんなふうに思いました。

 

そして、時間になると、
空き店舗の中におじいちゃんおばあちゃんがなだれ込む。
「店長」と呼ばれる人が5分くらい喋ると、
今度はおじいちゃんおばあちゃんに、パン3斤とかゼリーを無料で配ります。

全部で15分くらいの出来事でした。

 

なに?
なんなのこの仕事。。。
ってか、これ仕事なの???

僕の頭はハテナでいっぱいになりました。

 

 

醤油(1升)、味噌(1キロ)、トイレットペーパー(18ロール)、みりん(1.8リットル)全部100円

 

当然僕は聞きました。
「これ、僕も買えるんですか?」

ダメでした(笑)

その日はそのあと、
お昼過ぎにお客さんの波がまた来て、
今度はお醤油1升を100円で販売。

夕方にもお客さんの波が来て、
お味噌かなんかの樽を100円で販売。

なんなんだ。

これなんなんだ。

新手の100円ショップか?

僕はそんなふうに思っていました。

勤務初日。
拘束時間は9時から17時くらいでしたが、
実際に仕事をしたのは1時間半程度。

あとは、なんかダラダラしてる感じ。

ほとんど仕事ないし、
タダ同然でモノを配ってるし。

いったいこの仕事はなんなんだろう。
それが初日の感想でした。

翌日も、
トイレットペーパーとか、
みりんとか、
到底100円では売れないどころか仕入れることもできないようなものを、
バンバン100円で配る。

おじいちゃんおばあちゃんの人数はどんどん増え続ける。

3日目もそんな感じ。

ナゾは深まるばかりでした。

 

 

全てが100円だった理由

 

入社から3日間、
「会場」と言われる場所に、
300人以上のおじいちゃんおばあちゃんが連日押し寄せ、
パン3斤やフルーツゼリーをタダで配り、卵1パックを50円で売り、
トイレットペーパーも一升瓶の醤油やみりんも樽の味噌も、
何でもかんでも全部100円で売る。

会場では「店長」と呼ばれる上司が、
お店の主旨を説明しているが、
いまいちよくわからない。
何せ早口で5分くらいの説明で終わる。

 

そんなことが3日間続いてから、
4日目、5日目、6日目。
気がつけば、店長の説明がだんだん長くなってきていた。

主旨としては、
「宣伝のお店だから、商品を試してほしい」
「使ってみて良かったら、正規の値段で買ってほしい」
「お友達を連れてきてほしい」
「TVで宣伝するより商品を配った方が安い」
という感じだった。

なるほど!確かに!
これは面白いスタイルだな、と思いました。

そして、店長が商品の宣伝をしながら、
お笑いトークをしたり健康トークをしたり、
おじいちゃんおばあちゃんも暇つぶしに喜んでる。

 

あー、こういう仕事もあるんだなー、
なんて思って、
完全に理解できないまでも、なんとなく面白そうだな、
なんて思い始めてました。

しかし、
この後驚きの展開を迎えるのでした。

 

 

いきなり1日で120万円

 

入社してから数日間、
とにかくいろんなものを100円で配り続ける日々。
連日訪れずおじいちゃんおばあちゃん。

同じ人が毎日通い続ける。
友達も連れてくる。
増え続けるおじいちゃんおばあちゃん。

ちょっと、怖い。
なんか、ものすごく元気だし。
会場はいつもパンパンでした。

10時30分と14時と16時30分に
おじいちゃんおばあちゃんが集まります。
店長と呼ばれる人が、
お笑いトークや健康トークを織り交ぜながら、
商品の宣伝をします。

「TVCMは高いけど、僕が喋る分にはタダでしょ!」
とか言って。

みんな楽しそう。というか、良い暇つぶしになっているみたい。

そんなことが2週間くらい続いて、
最初5分くらいだった営業トークも、
気がつけば1時間くらいになってる。

その間僕は、ずっと会場の横に立っているだけ。
なんとなく、ちょっと疲れるけど、
立ってるだけで、商品配ってるだけでお給料もらえるんだから、
安いもんだと思った。

あと、スタンプカードみたいのがあって、
来場のたびにスタンプを押すのですが、
それを押しながらサッと名前を覚えて、
次に来た時には名前で呼べるように、
なんてことも言われた。

ものすごく難しかったけど、そこはがんばった。

 

そして、入社からちょうど2週間くらい立った頃、
打ち合わせで、「今日は予約をとるぞ」と店長。

いったいなんだろうなーと思ったら、
なんか味噌みたいな「酵素」と呼ばれる健康食品を売るそうで。

それまで100円でものを配ってるお店なのに、
酵素は1瓶30,000円以上。

えー、誰がそんなの予約するのかなー。
誰も買わないんじゃないかなー。
って思ってたのですが、
なんと1日で40人以上が予約。

それだけで120万円分。
「こ、この店長、何言ってるかわかんないけど、すごい人なんじゃ???」

 

 

そして、この後このセールス物語は衝撃の展開を迎えます

次回、乞うご期待!

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